結婚式では恥ずかしくて読めなかった母への想いが詰まった封筒

結婚式で育ててくれた母へ恥ずかしくて読めなかった想いが詰まった封筒

私の母はまだ私が幼稚園の頃に離婚しました。詳しくは聞けませんでしたが慰謝料も貰わない形になったそうで、きっと円満な別れ方ではなかったのだと思います。

それからというもの、母が1人で家庭を守ることになりましたが、生活が苦しく
いわゆる貧乏生活に近いものでした。

小学生の頃は周りのお友達が新しいお洋服を買ってもらったり、お母さんがいつも家にいるのが羨ましかった記憶があります。その頃の母はそれどころではなく、朝から夜まで正社員の仕事をこなして、夜中にはアルバイトをするような生活で、子供ながらに寂しい、これが欲しい、などと口には出せませんでした。

小学生のころに寂しい気持ちを我慢しすぎたのか、中学生になると一気に非行の道に走ってしまい、家に帰らないことも増えました。

母はただでさえ仕事で疲れているのに、私の素行問題でよく泣いていた気お気があります。その頃の私の考えはひどいもので、母のせいで今の私があるのだ!あなたのせいだ!と思っていました。非行に走る子供たちはこの程度の考えですよね。

高校への進学に向けて少しずつ非行もなくなり、金髪だった髪を黒くして、短いスカートを膝丈にしました。そうして進学についての話をしたり、希望校の案内封筒を一緒に見たり、少しずつ母との会話も増えていきました。

受験戦争を勝ち抜き、無事高校へ進学。その頃ではすっかり落ち着きをもって、学校へ真面目に通いアルバイトも始めました。アルバイトを始めて感じたことは働くことの大変さです。お金を稼ぐとはこんなに難しいことなのか、と思いました。給与明細の封筒が社会人になったようで誇らしい気持ちでした。

高校生活での色々な経験は、私を少しずつ成長させてくれました。学ぶことがとても多くありました。非行の道にいては気づけなかった、努力、感謝、友情、恩恵…数え切れません。ここで途端に中学の頃の日々への後悔が沸き上がりました。あんなに身を粉にして働いてくれた母に対して、心無い言葉や態度、涙を流させてしまったこと…自分で自分が許せなくなる胸を締め付ける後悔です。

私は1人で誓いました。これからは母を守り幸せにする!必ず恩返しをする!幸せにするんだ!と強く誓いました。

高校卒業後は手に職が欲しくて専門学校へ進学しました。この頃母の仕事の収入が落ち着いて、生活にゆとりが出てきました。きっと世間的に働く女性への評価が高くなってきたころにあたると思います。母へ専門学校への案内封筒をおずおずと渡したときも二つ返事であなたのやりたい道に進みなさいと言ってくれました。

専門学校では高い学費を出してもらっていることもあり必死に学びました。そうこうしているとあっという間に2年が経ち、成人式の準備が始まりました。
私ももれなく周りの友人たちと成人式に向けての相談をしておりました。食事会はどうする?振袖は決まった?どこの美容院にする?と盛り上がりました。
そんな中、友人の一人が「私成人式の日にお母さんに手紙書くよ」と言ったのです。
他の友人たちも私も!私も!と口々に言います。
私は何とも言えずに黙ってしまいました。

私は性格が男っぽいところがあり、母に今まで一度も手紙を書いたことはありませんでした。友人たちと別れたあと、ぶらぶら1人でウィンドウショッピングをしているとお洒落な文房具屋さんがあり、何気なく店頭に並ぶ封筒を眺めては中へ。頭の中では母への手紙、というのが引っ掛かっていたのだと思います。そのまま封筒のコーナーへ。
その文房具屋さんは品揃えが豊富で、棚の端から端まで海外のものから日本のものまで封筒と便箋がびっしり並んでいました。

その中の一つに気になった封筒のセットがありました。薄いピンク色にボルドーの細い線でバラの絵がさりげなく描かれているもの。なんとなく私の母をイメージさせる封筒セットを手に取りましたが、しばらく考えてまた戻してしまいました。

周りの友人のよう素直になれたら良いのに。可愛らしく思ったことを手紙に綴ったり、声に出して言えたら良いのに。私は特に母の前では素直になれず、ありがとうの言葉も数えるほどしか言っていません。

成人式から5年の歳月が流れました。私は専門学校で学んだことを仕事に活かしています。
先日付き合っている彼からプロポーズを受けました。彼は私と正反対のタイプで、思ったことや感じたことをすぐ口にできる人です。彼は事情があって両親がいなくて、叔父さんと叔母さんに育てられたのですが、私の母の事をこれからは自分の母親と思って絶対に大切にすると言ってくれました。私も彼しかいないと思える人なので喜んでプロポーズを受けました。母に報告すると、本当に嬉しそうでした。

プロポーズから約半年後の結婚式当日。
今日は生まれて初めて書いた母への手紙の封筒を持っています。
恥ずかしくて読み上げるのだけは絶対にイヤ!と彼とプランナーさんを困らせてしまいましたが、渡すだけでも勇気を出したので良しとしてもらいます。

今までの事、本当に感謝していること、母のことが大好きだということ、涙を流しながら書き綴ったこの手紙。母に想いが伝わればいいな。

さて、それではそろそろ次の時間が母への手紙の贈呈です。
私はバラの絵が描かれた薄いピンクの封筒をもって立ち上がるのでした。