封筒には、夫の大きさが詰まっている

封筒というと、あのときの合格通知の思い出がよみがえります。
「あのときの合格通知」とは、もうすぐお互い50歳になる私たち夫婦がまだ40歳くらいの時のこと。約10年ほど前のことです。職場結婚の私たちは、長男を育てながら二人三脚、夫婦共働きをしていました。
そんな日々が続き、職場のステップアップのために私と夫の二人で、資格試験を受けてみようということになりました。どちらが言い出したのかはっきり思い出せないのですが、多分一方が「試験、受けてみようかな。」と言いだし、もう一方が「じゃあ、自分も。」という感じだったように記憶しています。それぞれでテキストや問題集を準備し、時には問題を出し合ったりしてお互いに協力しあいました。試験当日は夫婦で会場に向かい、励ましあって何とか無事に試験を終えることができました。
それからしばらく経ったある日、ポストに同じ大きさの封筒が2通届いているのを発見したのです。発送元を見ると、資格試験を請け負っている財団法人の名前が書いてあります。「あっ、試験の合否の通知だ。」ととっさに思いました。
ところがよく見てみると大きさは同じですが、あきらかに二つの封筒の厚さが違います。比べると私あての封筒のほうが何倍も厚いのです。
「うーん。これは、どちらかが合格、どちらかが不合格なのかもしれない。」と思いながら、恐る恐るまず私あての封筒を開けました。するとそこには「合格おめでとうございます。」の文字が。長男を育てながら、そしてフルタイムの仕事を持ちながら必死に勉強した試験の結果でしたので、もちろんとっても嬉しかったのです。やったーと両手を挙げて喜びたい気持ちでした。けれど一方、夫の封筒の中身を確かめてみると「残念ながら不合格です。」の文字が見えました。
私の封筒の方には、その後に必要な有資格者としての登録作業の説明や、それに必要な書類が何枚も入っていました。それで、夫の封筒より厚かったのだとわかりました。夫の方の封筒には、「残念ながら不合格です。」と書かれている紙が一枚だけ。
ガックリと落ち込んでいるかなあ。と心配しながら夫の方を見ると、夫は「ふーん。良かったなあ。おめでとう。」とあっけらかんとしています。私には落ち込んでいる様子は見せないけれど、きっと気落ちしているはず。と私は複雑でした。自分の合格で大喜びしたい気持ちと、夫が気の毒だなあという気持ちとの間でどうしたらよいか、戸惑ってしまいました。
でも、その私の心配をよそにその後も夫は淡々と日常を過ごしています。不思議な気持ちでした。
その後、何年かして職場の配置転換の時に、私はその時にとった資格を生かすことのできる部署に配属されることになりました。少しお給料もあがり、それまでは交代勤務で土日も関係なく仕事がありましたが、新しく配属された部署は、完全に平日のみの仕事。土日、祝日は休みという夢のような勤務体制になりました。新しい部署のある事業所は自宅からも近かったので、通勤時間も短くなりました。
長男を育てながらの土日のお仕事は、長男と過ごす時間が減ってしまう。と少し悲しい気持ちを抱えながらの通勤でしたので、ほんとうにありがたかったのを覚えています。
そして、その部署に異動することになったときや異動してからも、ひとりで合格してしまった私に嫉妬することもなく、「頑張りな。」と言葉少なに応援してくれた夫です。
いつも、やるべきことを淡々とやりながら、小さなことに一喜一憂する私の横でドンと構えている夫。ベタベタした優しさはない人だけれど、あの合否通知の封筒のことを思い出すたびに夫の淡々とした大きさを思います。