父の想いと白い封筒

私が20代中盤の頃、アメリカで始まったサブプライムローン問題を発端にリーマンショックが起こり世界金融危機が起こっていました。
当時私は転職し、新たに建築設備機器のメーカーに再就職したばかりでした。
実家が東京郊外で、職場まで距離があった為、私は都内に部屋を借り一人暮らしを始めました。
新しい職場と仕事に悪戦苦闘していたある日、実家の祖母から手紙が届きました。
かわいいキャラクターが書かれた封筒には紙が1枚だけ入っていました。
「お誕生日おめでとう。一人暮らしはどうですか?ちゃんとご飯は食べれてる?心配だからたまには帰ってきてください。おばあちゃんより」
毎日、夜遅く帰宅し、引っ越した住所は友達にも知らせていなかったので手紙が届くわけが無いとポストを覗く事もしていませんでした。
封筒に押された消印は私の誕生日の前日でした。
気が付けば、私の誕生日は1週間も過ぎていました。
テレビすら無い部屋、帰宅し、シャワーを浴びて寝るだけの日々に祖母からの手紙でふと実家に帰りたくなったのです。
その週末、私は祖母からの手紙を大切に鞄に入れて実家に帰りました。
帰宅すると、祖母は自分が出した封筒と私の手を握りベットの上で何度も来てくれて有難うと喜んでくれました。
私が帰宅したので父は「今日は出前を取ろう、お前、2階の部屋の父さんのPCの電源がついているから、好きなところでピザでも注文してくれ」
何で私が・・・と思いましたが言われたとおり、父の部屋でノートPCの蓋を開けました。
蓋の中には白い封筒が入っていました。
何だろう?と思いましたが邪魔だったので封筒を横にどかしてピザを注文しようとインターネットで検索をしていました。
すると、1階にいた父が2階の部屋へ来て「おい、その封筒今日こっちに来る為のガソリン代だから持ってけ」
ガソリン代?「いいよそんなの大した距離でもないのに・・・」「いいから、母さんには内緒だぞ!」
そう言い捨てて封筒を返す間もなく1階に行ってしまったので、どうしたものかと思いながらも、封筒を鞄に入れました。
宅配ピザが届き、久しぶりの家族団らん、食後に父が「おまえ、生活は大丈夫なのか?どこの会社も厳しいな。父さんもボーナスも給料も大幅カットだ。厳しいようならいつでも戻ってきていいよ」
「家出たばっかじゃん。今は確かに厳しいけど、自分の給料で何とか生活できてるよ。さて、明日も仕事だからそろそろ帰るね」
私はすっかり父から貰った封筒の事は忘れ、祖母に今度は私が手紙を書くと約束し車に乗り込みました。
帰宅し、鞄を床に放り投げると、鞄の口から白い封筒がはみ出ているのが見えました。しまった、返してくるべきだった。
そう思いましたが、私は几帳面に口を糊づけされた封筒をハサミでジョキジョキと雑に開き、中を覗きこみました。
お札が数枚・・・。よく見えないので封筒に指を突っ込んで取り出しました。
1、2、3・・・10・・・10万円・・・。
父さん、バカだな、こんな封筒に10万も入れて雑に渡すなんて。
大丈夫だって言ったのに。
母さんには内緒と言った意味がやっとわかりました。
父は、自分で貯めた小遣いを私が一人苦労していると思い、わざと何の変哲も無い封筒に入れて渡したのです。
私は、封筒と10万円を握り締めて一人部屋で泣きました。
そのお金は再度封筒に仕舞い、7年後結婚式の両親の燕尾服と着物のレンタル代にあてました。
勿論、両親はそんな事知らず、ただただ私の結婚を喜んでくれました。